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応用臨床編 |
超音波骨切削装置の最大の利点は、硬組織は切れるが、軟組織は切れないということである。そこで軟組織に接近している場所での組織の処置に用いる例を以下に示す。 |
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(1)抜歯
骨に覆われた埋伏状の抜歯に際して、骨を削除するのに有用である。歯が骨の中に深く埋伏している場合、軟組織を広く剥離して術野を広げ、適当な鈎を使って軟組織を排除しながら、回転するバーで骨や歯を削るのが従来の方法である。これに比べて、超音波骨切削装置であれば、軟組織の剥離の範囲を狭めることができ、組織の損傷が少なく、さらに器械の振動が小さいので患者にとって不快感が少ない。
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(2)歯槽頂の骨切り
インプラントの埋入部の骨幅が狭いときには、歯槽頂に水平方向の骨切りを行い、隙間を拡大してインプラントを埋入する。歯槽頂部に骨切りをする場合に、一般にはバーや振動する鋸を使うが、歯槽頂が狭いときには、インスツルメントが滑って骨切りが正しくできない。また、骨切りの幅が広くなるので、骨の犠牲が多くなる。超音波骨切削装置を使えば、チップの先端が滑ることなく、正確な位置に幅の狭い正確な骨切りができるので、少ない骨を有効に利用できる。
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(3)下顎枝やオトガイからの骨採取
口腔内から骨採取を行うとき、超音波骨切削装置を使うと軟組織の損傷が少ない、オトガイ部、下顎枝から骨が取られるが、とくに下顎枝では術野と視野が狭いので、バーで採取する場合は周りの軟組織を損傷し出血させることがある。バーによる下顎枝の外側の骨切りを行う場合には、バーが適当な角度で、骨の外側面に到達しないので正しい手術が極めて難しい。超音波骨切削装置のチップにはいろいろな角度のものがあるので、安全に正しい骨の採取ができる。ただ、チップの振動方向が問題である。
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(4)上顎洞底骨移植のための窓開け
上顎洞底骨移植の際に上顎洞側壁を削除するが、内側の洞粘膜は薄いのでダイヤモンドが埋め込まれたチップを使って洞粘膜の近くの骨を削ると粘膜を穿孔することなく、骨に窓を開けることができる。上顎洞の側壁の骨が厚い場合は、最初にスチールのラウンドバーである程度骨を削り、粘膜に近くなった時点で超音波骨切削装置に変更し、骨切りを進める。
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(5)腐骨の除去
ビスフォスフォネートによる下顎骨骨髄炎から生じた腐骨の除去に用いたが、腐骨柩を削除する際には、軟組織への侵襲を最小限にとどめながら、腐骨を遊離させて除去することができた。
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超音波骨切削装置の適応症一覧 |
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適応処置 |
ポイント・注意点 |
抜歯 |
軟組織の剥離の範囲を狭めることができ、組織の損傷が少なく、さらに器械の振動が小さいので患者の不安感が少ない。 |
歯槽頂の骨切り |
チップの先端が滑ることなく、正確な位置に幅の狭い正確な骨切りができるので、少ない骨を有効に利用できる。 |
下顎枝やオトガイからの骨採取 |
超音波骨切削装置のチップにはいろいろな角度のものがあるので、安全に正しい骨の採取ができる。ただ、チップの振動方向が問題である。 |
上顎洞底骨移植のための窓開け |
上顎洞側壁の内側の洞粘膜は薄いので、ダイヤモンドが埋め込まれたチップを使って洞粘膜の近くの骨を削ると粘膜を穿孔することなく、骨に窓を開けることができる。 |
腐骨の除去 |
腐骨柩を削除する際には、軟組織への侵襲を最小限にとどめながら、腐骨を遊離させて、除去することができる。 |
下顎管周囲の手術 |
腫瘍や嚢胞が下顎管に著しく接近している場合やインプラント埋入に際し。下歯槽神経に対しての骨削除に使うと神経の損傷が少ない。 |
外科的矯正手術 |
下顎枝矢状分割法や上顎 LeFort 1 骨切り術において、神経や血管に対し損傷の少ない手術ができる。上顎の手術では、LeFort
型の骨切りに加えて、さらに細かい骨切りが軟組織の損傷なしに行える。 |
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■5■ まとめ
このように、優れた超音波骨切削装置が市場に現れたからといって、通常の外科的な手技の訓練を省略することはできない。軟組織に損傷が少ない本装置でも、切開と剥離、止血をして、手術野に骨がよく見えるように露出してから骨の切削を行うという、骨外科処置における本来の手順を決してないがしろにしてはならない。これら口腔外科やインプラント治療を学ぶ歯科医師は、このことを肝に銘じていただきたい。
本装置は口腔内の手術に多くの利益をもたらす可能性を秘めている。しかし、この器械の応用を広めるためには今後のチップ形態の工夫とその運動の研究が必要である。最後に、チップの運動の撮影に協力いただいた、NHK技術研究所、資料の提供をいただいた、(株)ナカニシに感謝する。 |
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